And Juliet



すばらしい日々。5/7/2005


私は多く働き、少し食い、少し寝る。日々それだけである。

 そんな生活は希望にあふれ、悩みという言葉を単に解決しなければならない問題という言葉へと転化するどことなく電気的であるけれども揺らぎある柔軟な思考回路を与えてくれる。
 絶望的な苦難の泥沼を泳ぎきって自由な天空へ舞い上がる爽快感。人生全編に渡り絶え間なく蓄積される経験。その中で沈殿していく人間性と哲学。その精神の根幹に分厚く横たわる不可侵錆付かない物質をはっきりと自覚する。この物質が私という、存在してもしなくてもどうでもよい生物の生きる価値を厳格に肯定するのである。
 その物質。名を、野望という。
 私は野心の赴くままに生きられる種の人間であり、そのような環境を努力によって自ら創り出し、謙虚に、強引に、慎重に、大胆に行動し、つまり己を信じる儘に生き、どこかしらそれを高みから見物し楽しみ、そして死ぬことのできる幸運な星の下に生まれた人間なのである。


 上記のように支離滅裂な言語を駆使して自己顕示するのは、自己紹介でもなければ高慢な自慢話でもない。これから必ず私を襲うだろう絶望に打ちひしがれる未来の私自信を、彼から見て過去の私が鼓舞しようと試みるものである。夢を追う限り絶望がつきまとう運命の神の法則に恐れるならば、ただ愚かな人の力でもってして出来うる限りは、恐れることなく備えようという稚拙な抵抗の布石である。

 野望。私は夢を全力で追いかけている。失うものなど、これまでもなかった、振り返らなければ、これからもないだろう。

 だから今、私は多く働き、少し食い、少し寝る。日々それだけなのである。  






novel



 敗北する夢をみた。よくは思い出せない。軽い焦燥感を伴って気持ちの悪い朝を迎えた私は、うつ伏せのまま目覚めた。灰色のベッド、灰色の枕、灰色の壁、灰色の天井。起き上がって出かける仕度をする。歯磨きのチューブは灰色で、そのペーストも灰色だ。今日はどの?を着ようか。?というより衣装、仕事に着ていくものなので、さらに衣装というよりは戦闘?なのだが。灰色のクローゼットのドアを開ける。そこには色とりどりの衣装がいつものように並んでいる。真っ赤な血がべっとりとついた白いシャツが目に止まったので、私は何気なくそれを着て会社へと向かった。
 灰色の光景を眺めながら灰色のオフィスへ入った。おはようございますと部下の田中は今日も声がでかい。ケロイド状の身体をもつ田中の成績はなかなかのものだ、足も速い。落ち武者の格好をした佐藤君の席は窓際にある。昔は彼も一世を風靡して仕事仲間の誰もが一目置いていたが、今は流行らないようだ。
 さてと、と一呼吸置いてオフィス中央に設置された映写機にフィルムをセットした。田中が部屋の明かりを消す。私は灰色の壁に映し出された色付きの映像を見ながら、部下達を見回した。今日も田中はやる気に満ちた目つきをしている。私が彼と目を合わせてうなずくと、田中は映画の世界へ飛び込んでいった。主人公の若い女性はケロイド田中の登場に驚愕し、わめきながらあたふたと逃げ出した。必死の形相が女の恐怖の度合いを伝える。私はいちいちチェックする。落ち武者佐藤は白黒映画だと俄然やる気になるが、カラーは駄目らしい。ケロイド田中は我武者羅に逃げる女の肩に手をかけた。そこで私はフィルムを止めて、もういいよと声をかける。意気揚々と戻ってきた田中を褒めて、私は次のフィルムを映写機に通し同じ事を延々と続ける。これが私の仕事の全てである。
 灰色の陽が暮れて、私は灰色の自室へと帰った。人間。つまりあの映画に移っていた女と同種の生き物の事だが、彼等は時々、何者かに追いかけられる夢を見る。彼等は何事にも吊前を付けたがる。しかし私達の存在には気付いているが、吊前を付けない。これは何故だろうと思う。キラー西村ですと吊乗ってやろうと今まで何度も思ったが、上からの命令でそれはご法度だ。私はこれから、私の存在を明確に知らしめてやろうと彼等を追いかける事にしよう。彼等が私達の吊を呼ぶこと、それが私達の本当の勝利なのかもしれない。
 などと思いながら、私はまた灰色のベッドに潜り込んだ。



大量の過去ログはインターネットという意識の集合体に忘れ去られました。

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 神差計一郎という吊を持った実態のない存在が意識の統合として形作るもの。公開以後さまざまな進化と退化を遂げて現在に至る。そして半永久に止まらない変体。この意識の性別は男。


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文責:神差計一郎(かんざし けいいちろう)







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